突然死は生涯に渡って発生します。しかし、最も発生頻度が高いのが乳幼児です。成人では大部分の例で原因が明らかになりますが、乳幼児ではほとんどが原因不明です。20世紀末に世界中で乳幼児の突然死に関心が集まり、乳幼児突然死症候群(Sudden Infant Death Syndrome: SIDS)として広く認識されるようになり、原因究明に躍起になっていました。その後、うつぶせ寝が危険因子だとされ、世界中でBack to Sleep Campaignが開始されると、顕著にその発生数が抑制されました。わが国も例外ではありません。それに伴い、SIDSへの関心は徐々に薄れてきています。しかしながら、原因が解明されたわけでも、治療法や予防法が確立したわけでもありません。
近年は診断の不確実性のため、SIDSではなく、予期せぬ乳幼児の突然死(Sudden Unexpected Death in Infant: SUDI)との新たな概念が重用されています。しかし、診断を原因不明の突然死とすることは、公衆衛生を不安定にします。また、外因死の責任を不明確にし、再発予防策策定にも影響が出てしまいます。そして、原因や機序の究明を目的とした医学研究も困難にしてしまいます。このような状況を打開するために、2023年の理事会で診断基準検討委員会が再度設置され、診断の手引きの改訂作業に着手しました。3年間を費やして編纂された乳幼児突然死診断の手引き改訂第三版を、本学術集会で公開いたします。本学術集会では、改訂第三版をめぐり活発な討論が交わされることを期待しています。これを契機に、診断が適正化され病態解明への路が切り拓かれる原点になることを祈念しています。